凍結胚移植について
凍結胚移植は、胚移植の後に余剰胚が生じたときや新鮮胚を移植することができないとき(子宮が移植に適さない状態であるとき)によく行われています。では、なぜ凍結胚移植が行われているのかを理解していただくために、まずは胚移植に至るまでのIVFのステップについて簡単にご説明します。
IVF(体外受精)の概要
- 不妊の相談:不妊治療専門スタッフに相談する。
- IVFの準備:患者さま個人のIVF治療の方針を決めるためにいくつかの検査を行う。
- 卵巣刺激と経過観察:卵子を成熟させるために卵巣を刺激し、卵巣の状態を観察する。
- 排卵誘発剤と採卵:排卵を誘発させるための注射をし、医師が卵子を採取する。
- 受精:胚(受精卵)をつくるために体外で患者さまの卵子とパートナーの精子を受精させる。
このステップの一つ一つが、IVFの治療方針を左右する重要な分岐点となります。特に、新鮮胚または凍結胚を移植するかどうかも患者さま個人のIVFの治療方針によって決まります。
胚移植とはなにか?
胚培養士が精子と卵子を受精させると、胚の発育が始まります。胚が成長したら、良好胚を決定し、母親の子宮に直接移植します。この過程が胚移植として知られているものです。
IVFで最も重要な胚発生の過程は以下の時期です。
- 3日目 卵割期: 一般的に胚生検や胚移植を行う最も初期の時期。
- 5、6日目 胚盤胞期: 将来胎児となる「内細胞塊」が発生し、続けて胎盤となる「栄養外胚葉」の2種類の細胞を形成する時期。
また、最近の研究では、子宮内膜の因子の重要性にも着目されています。子宮内膜は子宮を覆っており、胚移植のときに胚が移植される場所です。子宮内膜は着床に対して受容性があること、胚が発育するために快適な状態であること、このどちらも揃っていることが重要なのです。
新鮮胚移植と凍結胚移植―違いはなにか?
新鮮胚移植と凍結胚移植の最も大きな違いはタイミングです。
新鮮胚移植周期では胚発生の3日後または、5日後(あるいは6日後)に胚を子宮内膜に移植します。
逆に、全胚凍結周期では、すべての胚を胚盤胞期胚5日目 まで発育させ、ガラス化凍結法で胚を保存します。これは胚にダメージを与える氷の結晶を発生させずに急速に冷却し、凍結する超急速凍結法のことを指します。理論上、胚の細胞の機能を高く維持した状態で長期間保存することができ、この凍結方法は将来の胚の発育には影響がありません1。
多くの場合、IVFの方針として、新鮮胚を移植して、余った胚を将来の移植のために凍結保存します。
新鮮胚移植とは違い、凍結胚はすぐには移植せず、子宮が移植に適した状態になるまで保存します。IVFを経験する多くの患者さまは、新鮮胚移植では子宮の環境が整っておらず、 新鮮胚移植ではなく胚を凍結して移植を延期することがあります。凍結胚移植では、子宮が妊娠に最適な状態のときに移植ができるという大きな利点があります。
なぜ凍結胚移植が行われているのか?
凍結胚移植の利点は先ほどお話したようにタイミングです。
新鮮胚移植周期では、子宮内膜や胚の状態、ホルモンの量など、胚移植に最適な条件がすべて揃っているかを確認する期間がたった3-5日間しかありません。さらに、その他多くの因子が妊娠成功のチャンスを最大限に高める状態であるかを確かめなければなりません。
一方で、凍結胚移植周期ではこの時間の制約がなく、患者も医師も準備を万全にする時間が与えられます。
凍結胚移植において移植までの準備期間を与えられることの利点は以下のような点が挙げられます。
- 胚生検:新鮮胚移植周期で与えられるわずかな時間で胚の検査(PGT-A/M)を行うのは非常に困難ですが、凍結胚移植では移植する胚を解析するには十分な時間があります。
- 個別化された胚移植:女性の1/3は理論的に最適な胚移植のタイミングが正しくありません。凍結胚移植では個人の着床の窓を決める子宮内膜受容能検査(ERA)を行うことができ、これにより、着床成功の道へと繋がります。
これらの検査は35歳以上の女性や、IVFの失敗や流産を繰り返し経験した女性にとくに推奨されています。日本ではここ数年、様々な研究成果から、全体的に凍結胚移植にシフトしています。
もちろん、IVFの治療方針は最大の効果が得られるよう個人に合った方法を選択し、医師と相談しながら方針を決め、治療が行われています。
参考文献
- Raju, G.A.A.R. et al, “ Neonatal outcome after vitrified day 3 embryo transfers: a preliminary study” Fertility and Sterility vol 92,1 (2009): 143-148 doi: https://doi.org/10.1016/j.fertnstert.2008.05.014
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