Vol 36:胚培養士から見た最新の技術について
病院の先生方をゲストにお招きし、不妊治療の最先端医療技術についてわかりやすくお伝えしていきます。今週のテーマは「胚培養士から見た最新の技術について」。
番組情報
放送分:2018年9月9日放送分
ゲスト:山下湘南夢クリニック 研究室長 胚培養士 中田久美子 先生
テーマ:胚培養士から見た最新の技術について
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番組紹介
ここからのお時間は「妊活ラジオ~先端医療の気になるあれこれ」をお届けします。
最近「妊活」という言葉をよく耳にしませんか?
妊娠の「妊」、活動の「活」、ひとことで言えば文字通り「妊娠するための活動」という意味があります。
まさに妊活中のあなたに届けていく20分間です。
この番組では、ゲストをお迎えし、テーマに沿って不妊治療の最先端技術をご紹介していきます。
お話を進めていただくのは、スペイン発の不妊治療を専門とした遺伝子検査会社アイジェノミクス・ジャパンの技術責任者、トシさんです。トシさん、よろしくお願い致します。
番組内容
トシ: よろしくお願いいたします。先週に引き続きまして、山下湘南夢クリニックの中田久美子先生に来ていただきまして、胚培養士から見た最新技術についてお話を伺いたいと思います。この胚培養士、胚というのは卵と精子を体外で受精させてできた卵のことを指しています。よろしくお願いいたします。
中田: よろしくお願いいたします。
西村: 山下湘南夢クリニックで胚培養士としてご活躍の中田久美子先生です。中田先生、今週もよろしくお願いいたします。
中田: よろしくお願いいたします。
西村: 先週に引き続いてなんですけれども、胚培養士というお仕事、どんなお仕事か改めて皆さんにご紹介いただけますか?
中田: 1日のタイムスケジュールからお伝えしたいと思います。だいたい朝、出勤をしましたら、前日に体外受精、顕微授精を行った卵の受精の状況を確認しまして、またその前々日に受精した卵が分割してきているかどうかというのを確認していきます。それから採卵の方に入りましたり、精子の精製というのを行っていきます。その後体外受精、顕微授精を進めていきまして、夕方あたりに胚移植の方を進めていく、というふうに行っています。
西村: もう本当にね、先週そのお仕事の流れをお伺いしたら。
トシ: びっくりしました。
西村: 分刻みのスケジュールで、大変なお仕事なんだなっていう(笑)
トシ: 大変だと思いました。ええ、改めて思いました。
中田: ありがとうございます。
西村: さて今日は、胚培養士のお仕事についてももちろんなんですけれども、男性の患者さんも多数お見えでいらっしゃると思うので、そのあたりのコミュニケーションの取り方とか、心がけていらっしゃることとかまず、ありますか?
中田: はい、あります。やはり男性の方は特に数値、論理的に考えられますので、精子検査の結果ですとかそういうときに自分の数値を見て、その横にWHOの基準ってものも挙げているんですけれども、その数値とどれぐらいかけ離れているかをご自分で見られるとやはりとても傷ついている方もいらっしゃいますし、安心されてる方もいらっしゃると思うので。なので、男性の方の場合にはやはりどういう部分に関心がいくのかっていうところは考えなければいけないかなってふうに思います。
西村: 女性の患者さんの方があまり数字とかっていうところよりも感覚的な部分でのご相談の方が多いってことですか?
中田: 感覚の部分もそうなんですけども、やはり自分の思いをもうちょっと分かってほしいっていうところは大きいですね。それは胚培養士に対してでもそうで、今回の卵はどうでしょうかってふうなご質問をいただくんですけれども、男性からのご質問ですと、この卵だとどれぐらい妊娠の可能性がありますか、って。
トシ: ああ、すぐそこへ行くんですね。なるほど。
中田: この卵の状態は良いんですか、悪いんですか。悪いんだとしたらどれぐらい悪いんですかって聞いて来られる方もいますし。
西村: そこでももう、具体的に良い数値はどれなのか、逆に悪い数値はどういうことなんですかっていうご質問が、結構ばしっと。
中田: ばしっと来ますね。
西村: 男性の方の方が多いんですね。
トシ: でもなかなか難しい、できないですよね。先週お聞きした中で状態が、見た目悪い卵であってもやっぱり可能性はある訳ですよ。そういった中でなかなか、男性からの質問に対しての答え、とても難しいですよね。
中田: それがやはり男性と女性の考え方の違いかもしれないんですけども、この卵だったら10パーセントでもうまくいくんであれば自分は賭けたいって女性は思う方が多いと思うんですけど、男性の場合には90パーセントうまくいかないものにどうしてそんな賭けなきゃいけないんだって思ってしまう方もいらっしゃるんですよね。なので、どっちの数値を自分が主軸に置いてるのかっていうところでも、男性と女性でちょっと考えるポイントが違うんじゃないかなと思います。
トシ: なるほど。考えさせられますね、これは。
西村: あと、以前と比べてやっぱりその男性の方々のクリニックにいらっしゃる率って増えてたりとかするんですか?
中田: やはり増えました。私たちのクリニックには受精の確認のお電話もかけていただくんですね、前日に採卵された方に。5、6年前まではほとんどが奥さまだったんですけれども、最近はご主人がかけてくることが多くなりまして。でもご主人ですと、ちょっとあの、すぐ名前が出て来なかったりもしますので。本当に奥さまのご主人かどうか分からなかったりもしますんで、奥さまの名前と生年月日と。
西村: しっかりね。
中田: しっかり確認してお伝えするようにはしてるんですね。というのも、一緒に来られていても、本当にご主人なのか(笑) っていうのとか、どういうふうに証明するのかってお電話だと分からない場合があるんですけど、奥さまだとお話ししたりっていうところでももう確認が取れるので、やはり男性の場合にはそこは気を付けるようにはしてますね。
ただ、すごく心配してお電話してくる方が増えました。通院を一緒に来られる方もすごく増えまして。採卵の方法ですとか採血のところまでご主人が後ろに立って、すごくご心配げに。
西村: いや、でもそれは女性の立場からすると本当に嬉しいことですよね、近くに寄り添っていてくれるだけでも本当に。
中田: はい、本当にそう思います。
トシ: そうですね。確かに、最近もドラマでもありましたね。そういうシーンがいくつも見られたのがありましたね。旦那さんが一緒に付き添ってという。
西村: トシさんはご自身が男性の立場からすると、クリニックに行くとき、行くというタイミングのときって、門を叩くのちょっとこう、ハードルがあったりします?
トシ: いやあ、戸惑いますね。私、こう、技術をですね、まあ検査会社ですので先生にこの技術を導入してもらうとですね、扉を、入る訳ですよ。それ、緊張しますね。もし本当に、裏から入ってくださいってあらかじめ言ってくれるとすごい助かる気持ちはあったりしてですね。もちろんアポを取って行ってる訳なんですけど、とても緊張します。
西村: やっぱりその、女性の空間のような。
トシ: そうです、どこに目をやっていいかとか、困ってですね。もちろんこう、座ってくださいって言われますけど、私健康ですからね、座りづらい(笑)
そうなんですよね。いやあ、だから一緒に付き添って行っておられるご夫婦、とてもこう、私からだとすごいなあとやっぱり思いますね。
中田: 後は不妊クリニックですと、ピンクの内装とか、かわいい雰囲気にしてるところが。
西村: そうですよね、優しい、ね。
トシ: そう思います。
中田: はい、多いと思うんですね。ですけど当クリニックっていうのは植物をすごく置いていて木調の落ち着いた空間になっているので、ご主人が多分入ってきてもそこまでどきどきする空間ではないんじゃないかな、と思います。
西村: それは素敵。
トシ: 良いですね。
中田: はい、落ち着いていただけるのがやはり良いですね。
西村: 『妊活ラジオ~先端医療の気になるあれこれ~』。今日はスタジオに山下湘南夢クリニックで胚培養士として活躍されていらっしゃる中田久美子先生にお越しいただいております。先生、今日のテーマなんですけれども、『胚培養士から見た最新の技術について』。さあここからは具体的に、トシさん、お話を中田先生と一緒によろしくお願いします。
トシ: ええぜひ。よろしくお願いします。まず私、ちょっと聞きたいところはですね、卵子や精子の、これ本当に一般的な保存技術、よく凍結保存とか言いますよね。融解技術。そのあたりをまずお聞かせ願えますか。
中田: 卵子はまず凍結がすごく難しいと言われていまして、今も社会的凍結保存と、遺伝性の凍結保存と2種類あるんですけども。
トシ: 2種類あるんですね。
中田: 遺伝性と言いますのは奥さまの場合、女性の場合には、がん患者さんの方には先に卵子を採っておいて、治療が終わったらその卵子を使って妊娠をしようってのが遺伝性って入るんですけど、社会性というのは最近も言われてますけれども、若いうちに卵子を採っておいて、結婚したときにその卵子を使って妊娠をしようというふうに、2種類あります。なので、卵子凍結と胚凍結っていうそこでも大きく違うんですね。
トシ: そうか。僕もう一緒くたになってましたけど、そうですね。違いますね。
中田: 凍結に強い弱いっていうところでも、凍結に強いのは胚なんです。受精した卵子の方が強いので、その方が動物でもヒトでも、始まってきたのは胚から始まってきています。その後に、やはり卵子も凍結できないと、ってことで卵子の凍結保存もできてきました。けれども今の時点で胚の凍結保存の生存率と卵子の凍結融解後の生存率って、やはりそこでも大きく率が違ってきますので。若いうちに卵子を採ったから必ずしもその卵子が使えるかと言ったら。
トシ: 別の話なんだ。なるほど。
中田: はい。別の話になってしまいます。
トシ: ちょっと僕そこも考えがまた無かったので。なるほど。で、その胚の凍結保存の技術っていうのは、いったいどういうふうな。確かにこう、生ものですので、普通にはもちろん凍結保存、って言葉では凍結保存ですけど。ガラス化保存って言ったりしますよね?
中田: ああ、そうですね。
西村: へー、そうなんですね。
トシ: そう。あれ、なんでガラスっていう名前が?
中田: 何て言いますかね、超急速凍結法って言われてるんですけれども。
今まで凍結方法って緩慢凍結って言いまして、毎分何度っていうふうに下げていって、マイナス80℃、マイナス197℃っていうふうに時間を経って、2時間程度かけて凍結するのが緩慢凍結って言われてたんですね。
超急速ガラス化保存法っていうものは、もう一瞬にして液体窒素の中で。液体窒素ってマイナス197℃なんですけども、その中に卵をつけるっていうところで、急にまあガラス化はしてますよね。
トシ: ああ、そういうガラス化なんだ。
中田: っていう超急速に凍結をしておりますので。そういう凍結方法の違いもあります。卵子、胚はどっちの凍結方法が生存率が高いかって言うと、その超急速。
トシ: の方が良いんですか。へー、そうなんだ。ゆっくり下げていった方が何か。
西村: そう、イメージとしてはね。そうですね。
トシ: イメージはね、あったんですけど、そうなんですね。
中田: そのガラス化保存法というのも日本初の技術でして、そこから世界各国に広がってきています。
トシ: すごいですよね、日本の技術。
中田: 日本の技術はやはり世界を変えていってるかなと思いますね。
トシ: やっぱりあれだけ小さなものを扱う訳ですから、やっぱり日本の得意な分野ですよね。一方、精子の方の凍結もそういった、卵子と同じ?
中田: 卵子と同じようには凍結はしないんですね。というのも精子って結構な量がありますので、液体状なので、そんな液体状の中に入ってる精子をさらに凍結液っていうものと混ぜて、それを1.8ミリリットルぐらいのチューブの中にその液体ごと入れて凍結っていうのを行っています。ただ精子の方の凍結の方が歴史が古くて。1940年とか、もうちょっと前かな? ぐらいから始まってきてます。
トシ: 1940年って言いました?
中田: はい、ものすごく昔です。
西村: ちょっと今と、それこそ冷蔵庫のレベルでも全然違いますよね(笑) 家庭用冷蔵庫のレベルで考えたってすごい違うのに、その頃から精子の凍結保存が。
トシ: 家畜の分野ではもう、その頃から始まってたようですね。
中田: それがヒトに応用されていって、っていうところなんですけども、やはりルイーズちゃん、ルイーズ・ブラウンさんが生まれる頃がやはり体外受精ってのがはやってきた時代であって。その方が私の一個年下なんですけど。
トシ: ああ、そうなんですね。
中田: 78年生まれなんですね。そこからどんどん体外受精の技術っていうのはできてきていますので、その前っていうのはやはり凍結も、動物の分野で凍結が始まったとか、体外受精が始まったっていうところでした。なので、精子の凍結っていうものも、古い状態のままあまり進歩していないってのが現状だったんですね。
トシ: だったんですね。で、こう、最近の保存技術っていうのはどのようになってきてるんですか? 特にそこが聞きたい。
中田: いろんな凍結保存の方法も開発はされているんですけれども、私はもうちょっと培養士さんが扱いやすいものができないかっていうところで、私自身も開発したものがあります。
それが、顕微授精を行うときにプラスチックのディッシュってものがあるんですけど、その中に精子を数匹入れて、その精子をガラスのキャピラリーでピックアップして卵に注入してるんですね。数匹の精子をなんとか確保できればいいんじゃないか、というところで。
トシ: 確かに、丸ごとたくさんじゃなくてね。多過ぎますからね。
中田: 特に精子数がものすごく少ない方の場合には、どちらにしても数匹しか集められない方もいらっしゃるんですね。それを今までの1.8ミリリットルとかの液体の中に入れてしまうと回収をどうやってしたら、大変になってしまいますので。
トシ: だけで大変ですね。そうですね、探すだけで。ええ。
中田: なので、その顕微授精を行うディッシュの一部分にその精子を置いて、そのまま凍結して溶かしたらそのまま使えるんじゃないかっていうところの発想から、そのディッシュで大きいので、3.5ミリとかのディッシュなので、それをもっとどんどん小さくしていって、一緒にやっていただいてるストレックス社っていう会社さんに良いものを作っていただいて、それで使って凍結をしています。
トシ: 一つの精子を保存できる技術。すごい。そうですよね、顕微授精っていう本当、卵に精子を直接入れる方法であれば、一つの精子があればもうそれでことが足りる訳であって。
中田: それがそのディッシュ状なので、倒立顕微鏡で見ながら、ここにいるなって確認したものをそのまま凍結して、溶かしたときにもうそこにいるなっていうのがすぐ確認ができるんですね。それだと培養士さん探さなくても良いし、患者さんにいませんでしたって言わなくても良いので、精神的にも心理的にも負担が減るかなと思って、それを開発させていただきました。
トシ: なるほど。
西村: 先生ご自身が開発されてらっしゃるっていうところのね、まさに最新ですね。
トシ: すごい。
西村: さて、お時間となりました。今日はアイジェノミクス・ジャパン工学博士のトシさんとご一緒に、山下湘南夢クリニック胚培養士の中田久美子先生と一緒にお届けしてまいりました。二週にわたってゲストでご出演いただきました中田先生、最後に皆さんにメッセージをお願いします。
中田: 患者さまの皆さま、毎日いろんな心配があると思うんですけども、卵の状態一つでも絶対に悪いということは無く、可能性があるものだってことを忘れないでいただきたいってことと、ご主人も、やはり男性の因子ってのは50パーセントあるのが不妊治療の現状ですので、自分だけ、奥さまだけではなくて、ご主人もなるべく奥さまと一緒に不妊治療を進めていただければな、と思います。
ホームページの方でもスタッフの方が毎日の出来事等お伝えしておりますし、患者さん説明会の方もご紹介しておりますので、良かったらご覧になっていただければと思います。
(全員): ありがとうございました。
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