PGT-A|PGT-A検査の歴史と最先端顕微鏡技術
FM西東京にて毎週あさ10:00~放送中の「妊活ラジオ~先端医療の気になるあれこれ」。毎週さまざまな先生方をゲストにお招きし、不妊治療の最先端医療技術についてわかりやすくお伝えしていきます。
番組内容
2020年3月1日放送分
リュウタロウ: 今日は「不妊治療と顕微鏡」というテーマでお話を進めていきたいと思います。
トシ: 私この顕微鏡、すごく楽しみなんです。なんでかと言うと、実はリュウタロウさんは…
リュウタロウ: 以前、顕微鏡の会社で働いていたという経験が。
トシ: スペシャリストです。私も大学生のとき、研究者だったとき、いろんな顕微鏡を使いました。ただ、分からないことたくさんあるんですよ。スペシャリストがここにいて、不妊クリニックには必ずある顕微鏡です。今日はこの辺り、いろいろ話聞かせてください。
リュウタロウ: どこから話せば良いかなとは思っていたんですけれども、年初からずっとテーマになっているのがPGT-A。PGT-Aは次世代シーケンサーでやる検査ですよ、というところを結構当たり前のように話してるんですけれども、そもそもNGSというか次世代シーケンサーという装置ができたのが2008~09年ぐらいで。認証に入ってきたのが2014~15年ぐらいでしたっけ?ただ、このPGT-Aという検査自体はもっと歴史は古いと言えば古い。
トシ: 古いです。やはり20年前からあって、当時はFISHっていう方法だったんですね。
リュウタロウ: そうですね、どうしてたの? って話ですからね。
トシ: このときは各染色体にくっつくプローブというもの、蛍光プローブを使ってましたね。それを使って見るんですけれども、ただ蛍光なので、蛍光の種類によって見える数が決まっちゃうので全部は見えないんですけれども。すぐに顕微鏡が必要だったんです。
リュウタロウ: 顕微鏡も実はいろいろな種類があって。一番顕微鏡って言ってこう親しみがわくのが、小学校とか中学校の。
トシ: 理科の実験室で使ったやつだ。
リュウタロウ: 理科の実験室で、プレパラートを見るのに使う顕微鏡が生物顕微鏡と言うんですけど、いわゆる顕微鏡のクラシックな形をしてますよね。
元々のFISHというのが、トシさんが今話したように蛍光を見る。蛍光の色素がいろんな種類があるんですけれども結構きれいですね。赤い点だったり、緑でしたり、青だったり。
顕微鏡を蛍光でのぞいていると、夜空にこう星がピカピカっと輝いているようなイメージなんですけれども、元々FISHで染色体の異数性を見てたっていうのがPGT-Aの。
トシ: もうこれ、バージョン1だと思います。一番最初です。
リュウタロウ: そうですね。今の次世代シーケンサーの一つ前の世代がマイクロアレイですかね。この頃からDNAを読んで。
トシ: そうです、網羅的に。
リュウタロウ: 網羅的に、というのが技術革新でできてくるようになったんですけれども、それより前は顕微鏡で見てイメージングでやってた。
ただ、蛍光も色が網羅的になんて言うほど無いですから。流産とか着床障害とかに明らかに関係が深いと分かっている染色体ですね、ターゲットを絞って5種類ぐらいの染色体が、とりあえず2本なのか、あれっ、3つあるとおかしいなとか、点が3つあるとおかしいなとか。そんな感じで顕微鏡を見て最初診断してた、検査してたっていうところがPGT-Aのスタートですから。PGT-Aというところでも顕微鏡は深くかかわってました。
トシ: これが培養の部門に深く入っていく訳ですよね。
リュウタロウ: そうですね、顕微鏡は小っちゃいものを拡大して見る、というのが本質ですから。細胞1個とか、胚がどうなっているか、胚の形を見たいとかいうときには必ず顕微鏡で見ます。
胚をシャーレでまず見るときは、先ほどのPGT-Aだと当時は8細胞期ぐらいの、細胞がまだ8つぐらいのところから一つ細胞を採ってきて、という形なので。本当に小っちゃい細胞を見るのでプレパラートのスライドが必要なんですけれど。
胚ってやっぱり、卵って結構大きくはなるので、多少こう立体感があるものを見たいときに使うのが実体顕微鏡という顕微鏡。ステレオズームで、拡大しながら立体感、胚の中とか奥の方までどんな形になってるかなっていうのが丸みも含めて見られるっていうのが実体顕微鏡なんですね。まず最初に実体顕微鏡で胚をチェックする、というのが顕微鏡の使い方になってきますね。
トシ: よくクリニックさんで、受精卵を受精させる前に、紡錘体(ぼうすいたい)の位置が分かりますよ、というのがありますよね。あれも顕微鏡技術が無かったらできなかったことですよね。
リュウタロウ: 紡錘体の話は本当ここ4、5年ぐらいですかね。かなりはやってますよね。あれを見るのは偏光っていう見方で、光って散乱してる光なので、普通に卵だけを見ると紡錘体っていう細胞の中の小っちゃい器官まではなかなか見えないんですね。さっき言った実体顕微鏡とか生物顕微鏡とか、中までは見えない。だけれども、その偏光っていう光の波を揃えるようなフィルターを入れると、影が付いて立体的に見えてくるんです。
トシ: なので、紡錘体の位置が分かるからICSI(イクシー)をするときにどこから入れれば良いか分かりやすいという。
リュウタロウ: そのとおりです。
トシ: これも一つの革新でしたね。
リュウタロウ: そうですね。そもそも今話したICSIのところですよね。顕微授精ってかなり細かいものを見て、すごく高度なテクニックが必要な手技になりますので、ここではシャーレに入れた状態で作業ができる倒立顕微鏡という顕微鏡を使っています。そこでいろいろ観察方法で立体的に見て作業をするというのが倒立顕微鏡です。
トシ: 私、初めて倒立顕微鏡を、クリニックさんにあるようなやつ、あれを見たときに、すごい大きいじゃないですか。おそらく患者さまもそうだと思うんですけども、一般の人が思う顕微鏡ってものは理科室での顕微鏡だったんです。でも、本当に不妊クリニックにあるような顕微鏡ってすごい大きいですよね。
ユミコ: 一つ聞きたいことがあるんですけれども。よく昔、理科の授業なんかで顕微鏡で葉っぱの脈なんかを見た記憶があるんですけれども、あれを見るのにだいたいあれで何倍ぐらいで見ているんです?
トシ: 倍率ね。
リュウタロウ: 顕微鏡の倍率ってのぞくところにも倍率があって。ものを見るところ、そっちにも倍率があって、その掛け算なんです。
見る方は接眼レンズといって、それはだいたい10倍なんですね。ものを見る方のレンズが何倍かというので、葉っぱとかだと多分、実体顕微鏡で対物レンズは1倍か、もしかするともうちょっと引いてみるかもしれないですね。
トシ: なるほど、逆にね。
リュウタロウ: 0.8倍とか。8倍とか10倍とか20倍とか、それぐらいだと思います。例えば昆虫とか見るときはあまり拡大しすぎると全体像がよく分からないからといってズームを引いたり。
トシ: ズームしたり。
リュウタロウ: といって見るので。胚とかも、実体顕微鏡で最初に見るときは接眼10倍で対物が1倍か2倍か。10倍ぐらいでズームをかけて引いて見ていく、と。この辺はぜひ、培養士さんに今度ラジオでお話しいただく機会があれば、ちょっとまたいろいろ聞いてみたいと思うんです。
トシ: そうですね、ぜひ聞いてみたいですね。
リュウタロウ: それで、前半のお話に戻ると、ICSIの話。
トシ: ICSIの中でやっぱり顕微鏡は深く関わってくるんですね。で、すごい大きい訳なんです、顕微鏡が。でも僕らがイメージしている、一般の人がイメージしている顕微鏡よりもだいぶ大きい。すごい一般の顕微鏡です。あれ、なんであそこまで大きくなる理由が?
リュウタロウ: 倒立顕微鏡という顕微鏡でICSIをする。作業するので、作業スペースは結構欲しいんですね。なので、上の方が結構空間になってて。あと、本体の下の方は振動があったりするとなかなか作業もしづらいので大きくなっているというのと、あとはそういった、より繊細なところを見たいというところになると、光学系をじゅうぶん確保するのにどうしてもボディーが大きくなる、と二つ理由があって。
実習用とかでコンパクトなものもありますけれども、顕微授精って細かい作業をする中ではかなりレベルが高い仕事なので、そういった本格的な倒立顕微鏡を使ってICSIをやる、と。
トシ: 確かにICSIする際に、卵を使うためのホールドというものと針とあってですね。その針の部分にいろいろ技術が入ってますよね。
リュウタロウ: 針を扱うのをインジェクターと言うんですけど、あとは作業をするマニピュレーター。それも専業のメーカーというのがあって、そのICSIクラスで使う顕微鏡はだいたい世界で大きく分けると4社。実はこれ、日本企業が2つとドイツ企業が2つという面白い形なんですけども。
トシ: ああ、そうなんですか。へえー。
リュウタロウ: 顕微鏡も2社あって、そのマニピュレーターは世界で大きく言うと2社あって。それも日本が1社とドイツが1社。
トシ: 日本のメーカーさん、どこなんだろ。
リュウタロウ: 顕微鏡で言うと、日本はニコンさんとオリンパスさん。顕微鏡でドイツで言うと、カールツァイスさんとライカさんですね。
マニピュレーターは、日本で言うとナリシゲさん。ドイツで言うとエッペンドルフさん。
ちょっとまあ、皮肉なところで。そういう過去の分析のところとかもあって、そういった工学技術はドイツ、日本、すごく進んでいるんですけれど、かたやなかなか両国とも不妊治療というか胚の扱いに関してはすごくコンサバ、というのがすごく不思議な感じがしますね。
ヨーロッパも一概に不妊治療が日本よりは進んでいるんじゃないの、ってヨーロッパをひとくくりにしてちょっとイメージしがちですけど、ヨーロッパはよくよく見ると、国ごとにやっぱり温度差が全然違います。特にドイツはちょっと厳しいですね。
トシ: やっぱり日本という国で顕微鏡から見ても、マニピュレーターにしても日本企業がトップで入っているというのは、生殖医療の技術としては持っているものはすごく高く、そういった恵まれた環境でありますよね。
リュウタロウ: そうだと思います。
トシ: このPGT-Aに関して、ICSIに関してもそうですけど、やっぱり器用さがとても大事になってくる部分だと思うので、日本でどうしても妊娠率が低いとか言われているけども、これがやっぱり変わっていきますね。
結構患者さまの間で、私ちょっとブログとかでよく見てるんですけれども、技術のところの心配。各クリニックの技術差を無くしてほしいだとか、技術がどうなのかとかいう話ってやっぱり見えない部分ですよね。でも今の話を聞いていくと、日本人としての器用さと、企業として、顕微鏡の企業、あとマニピュレーターの企業に日本支社が入っているということは、最新の技術が直接日本語で日本人に伝わるという、すごくありがたい話ですよね。だから、かなり高い。
リュウタロウ: あと、顕微鏡が向かう方向があるとすれば、もうちょっと自動化というところだと。
トシ: ああ、そうですね。なるほど、顕微鏡も自動化の話があるんですね。
リュウタロウ: 僕は顕微鏡屋さんをやってて不妊治療に結構関わったのが、一つはだいぶ昔のさっきのお話があったFISHと、もう一個は10年ぐらい前に結構はやったIMSI(イムジー)という手法があって。
なかなか広くは広まらなかったですけど、精子の形が良いものを採ってきて顕微授精しようという手法でしたけれども、あのときに、やっぱり卵もですけれども、精子の細かい形を見ようとすると、もっともっと高倍率で見ないと。精子の中に気泡があるのか無いのかとか、そんなところを見てたので。
そうすると、もっと顕微鏡の分解能をあげないといけないので、例えばレンズにちょっとオイルを付けて屈折率を稼いでもっと明るくしようとかそんな手法だったんですけれども、そのときに電動顕微鏡というのが結構役立ちました。ポジションを全部記憶しているので。
トシ: なるほど、良いポジション分かってるからすぐ焦点が合うんだ。
リュウタロウ: そういう繊細な作業をするときに再現性が出せるというのがすごく大事かな。
トシ: やっぱり顕微鏡の技術の革新ってすごい大事で、それで何ができるかってはっきり分かってくるから、すごいですね。
リュウタロウ: あとは、自動化という意味ではソフトもそうですね。先ほどのFISHと同時に、アイジェノミクスで言うと流産検体のPOCという検査も今NGSでやろうという風潮がありますけれども、広くはそのカリオタイプっていう染色体を並べ替えるシステムでやってるんですけれども、あれもかなりソフトが学習をして、自動で並べ替える。染色体が何本あるかっていうのをある程度自動で出してくる、っていうところになってますし、かなりソフトがもう今進んでいます。
トシ: ソフト側と顕微鏡の本当に基礎の部分と応用の部分というのがマッチしてますよね。
リュウタロウ: ですから、われわれアイジェノミクスの提供しているサービスは、これも次世代シーケンサーという本当の最先端の技術を使っているんですけれども、あとは顕微鏡をもうちょっと拡張すると、最近では培養するタイムラプスシステムとかも入ってますし。いろんな技術で最先端のものは組み合わさっているというのがこの高度生殖医療不妊治療の世界かな、と思ってます。
トシ: 面白い。
今日のテーマ、顕微鏡についてさせてもらって。昔の理科室での顕微鏡から始まって、今こうやって本当に医療分野において最先端の、少しずつ改良されているんだ、と。
リュウタロウ: やっぱり臨床の世界でもいろいろな原因を知るのに、もっと知りたい、もっと見たいという欲求は先生方にも、もちろんある。
トシ: そこから生まれてくるからこその。
リュウタロウ: この技術、まだまだこの先もどんどん新しいものが出てくると思います。
トシ: これは本当に私たちのアイジェノミクスとしても、PGT-Aの次は何なんだ、という話もつながっていくと思いますね。
コメント無し
コメント無し
コメントする